社会保険料の負担を適正化する方法|違法な手法との線引きを解説

社会保険料の負担を適正化する方法は、制度を正しく運用することに尽きます。具体的には、算定基礎届や月額変更届の正確な処理、残業の平準化による報酬の適正化、助成金の活用、そして業務効率化による残業削減です。一方で、雇用の実態があるのに業務委託契約に切り替える、実際の報酬より低い額で届け出るといった手法は違法であり、遡及徴収や罰則の対象になります。

この記事の要点

  • 会社が負担する社会保険料は、厚生年金18.3%の半分(9.15%)、健康保険料の約半分、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出金の合計。給与のおおむね15%前後にあたる
  • 2026年10月から「月額賃金8.8万円以上」という要件が撤廃され、週20時間以上働く短時間労働者は年収にかかわらず加入対象になる(従業員51人以上の企業)
  • 企業規模要件は2027年10月から段階的に引き下げられ、2035年10月にすべての企業が対象となる予定
  • 合法的な適正化は「正確な事務処理」「報酬設計の見直し」「助成金の活用」の3方向
  • 加入逃れ、虚偽の届出、実態のない業務委託化は違法。遡及徴収、追徴金、罰則のリスクがある
  • 判断基準は「実態が伴っているか」「書面と実態が一致しているか」「保険料回避だけが目的になっていないか」の3点
目次

会社が負担している社会保険料はいくらか

社会保険料の会社負担分は、給与総額に対しておおむね15%前後です。内訳は次のとおりです。

料率は年度ごとに改定されます。健康保険料率は都道府県および加入する健保組合により異なります。
保険の種類料率の目安会社の負担
厚生年金保険18.3%労使折半(会社9.15%)
健康保険約10〜11%台労使折半(会社約5〜6%)
介護保険(40歳以上)約1.6%労使折半
雇用保険約1.5%会社の負担割合が大きい
労災保険業種により0.25〜0.6%程度全額会社負担
子ども・子育て拠出金0.36%全額会社負担

月給30万円の従業員1人につき、会社は毎月およそ4万5,000円を別途負担している計算になります。給与20人分を支払っている会社は、実質的に23人分のコストを負担しているという感覚に近いでしょう。

2026年10月の改正で何が変わるのか

2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年10月から短時間労働者の加入要件が変わります。

時期内容
2026年10月「月額賃金8.8万円以上(年収約106万円)」の要件が撤廃。週20時間以上働く短時間労働者は、年収にかかわらず加入対象に
2027年10月以降企業規模要件(現在は従業員51人以上)が段階的に引き下げ
2035年10月すべての企業が適用対象となる予定

この改正により、全国でおよそ200万人が新たに加入対象になると見込まれています。残る要件は「週の所定労働時間が20時間以上」「2カ月を超える雇用見込み」「学生でない」の3つです。判断の軸が年収から労働時間へ移ることになります。

追加負担の試算例

月額賃金8.8万円のパート従業員1名が新たに社会保険の適用対象になった場合

・会社の追加負担は概算で月額およそ1万3,000円

・年間ではおよそ16万円

対象者が10名なら、年間約160万円の負担増

パート比率の高い飲食業、小売業、介護、医療機関ほど影響は大きくなります。従業員50人以下の会社は当面対象外ですが、2027年10月以降は段階的に対象が広がるため、今から収益構造を見直しておく必要があります。

合法的に負担を適正化する5つの方法

1. 算定基礎届・月額変更届を正確に処理する

標準報酬月額は、4月から6月の報酬をもとに決定されます。この時期に残業が集中すると、1年間の保険料が高い水準で固定されます。特定の時期に業務が偏っているなら、年間を通じた業務量の平準化を検討する価値があります。

これは「4月から6月だけ残業を意図的に抑える」という意味ではありません。繁忙期の偏りそのものを解消し、年間を通して働き方を安定させるという業務改善の話です。

2. 残業そのものを減らす

残業代は報酬に含まれ、標準報酬月額に反映されます。残業を減らせば、残業代と社会保険料の両方が下がります。勤怠管理の可視化、業務の属人化の解消、事務作業の自動化が具体的な手段です。

削減効果が最も確実で、従業員にも会社にも不利益がない方法です。

3. 報酬の構成を見直す

賞与も社会保険料の対象ですが、標準賞与額には上限が設けられています。月例給与と賞与のバランスは、人事評価制度や採用競争力とあわせて設計する余地があります。

ただし、保険料の軽減だけを狙った極端な設計は、実態との乖離を問われる可能性があります。制度設計の際は社会保険労務士にご相談ください。

4. 労働時間と雇用形態を経営計画に基づいて設計する

週20時間という基準を踏まえ、必要な人員体制を見直すこと自体は経営判断の範囲です。ただし、従業員の同意なく一方的に労働時間を削減すれば、労使トラブルや離職につながります。

むしろ人手不足の現状では、労働時間を延長して戦力化する方向のほうが現実的な場合も多くあります。この場合、後述する助成金が活用できます。

5. 助成金で増加分の一部をまかなう

社会保険の適用拡大や処遇改善に取り組む企業向けに、複数の支援制度があります。保険料そのものを減らすのではなく、支援を受けることで実質的な負担を抑えるという考え方です。

違法・高リスクとされる手法

インターネット上には「社会保険料を大幅に削減できる」と謳う手法が散見されます。次のようなものは、違法または極めてリスクが高い領域です。

実態のない業務委託への切り替え

従業員を形式上だけ個人事業主として業務委託契約に切り替える手法です。指揮命令を受け、勤務時間や場所が拘束されている実態があれば、契約書の名称にかかわらず労働者と判断されます。いわゆる偽装請負として、遡って保険料を徴収されるほか、労働基準法上の問題にも発展します。

加入すべき従業員を加入させない

要件を満たす従業員は、本人の希望や労使の合意にかかわらず加入が必要です。「本人が希望しないから」という理由で加入を見送ることはできません。未加入が発覚した場合、最大2年分の保険料を遡って徴収される可能性があります。

実際の報酬より低い額での届出

虚偽の届出は、健康保険法および厚生年金保険法に基づく罰則の対象です。マイナンバーによる情報連携が進んだことで、税務申告額との突合も行われやすくなっています。

「合法的に社会保険料を半分にできる」といった宣伝文句には注意が必要です。制度の抜け道を売り文句にするスキームは、後の法改正や調査で否認されるリスクを常に抱えています。仮に否認されれば、遡及徴収に加えて延滞金が発生し、対応の負担は当初の削減額を大きく上回ります。

合法と違法を分ける3つの判断基準

  • 実態が伴っているか。契約の形式ではなく、指揮命令の有無や勤務の実態で判断されます
  • 書面と実態が一致しているか。就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿の内容が食い違っていないか
  • 保険料の回避だけが目的になっていないか。事業上の合理性がなく、保険料軽減のためだけに行う変更はリスクが高い

この3点に照らして説明できない施策は、避けるのが賢明です。

負担増に、制度で備える

社会保険料は法定のコストであり、制度に従う以上は避けられません。現実的な対応は、増加分を吸収できる収益構造をつくることと、使える支援制度を確実に使うことです。

取り組み活用できる制度
短時間労働者の労働時間を延長するキャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)
パート・契約社員を正社員化するキャリアアップ助成金(正社員化コース。1人40万〜80万円)
賃上げとあわせて設備投資する業務改善助成金(設備費用の最大5分の4、上限600万円)
事務作業を自動化して残業を減らすデジタル化・AI導入補助金(上限450万円)

適用拡大により保険料負担が増える一方で、労働時間の延長や正社員化に踏み切る会社には助成制度が用意されています。負担増を「人材戦略を見直す機会」として使えるかどうかが、数年後の差になります。

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よくある質問

会社が負担する社会保険料は給与の何%ですか。

おおむね15%前後です。厚生年金18.3%の半分、健康保険料の半分、雇用保険料の会社負担分、労災保険料、子ども・子育て拠出金の合計です。料率は年度や都道府県によって変わります。

2026年10月から何が変わりますか。

短時間労働者の加入要件のうち「月額賃金8.8万円以上」が撤廃されます。従業員51人以上の企業で週20時間以上働く人は、年収にかかわらず加入対象になります。全国で約200万人が新たに対象になる見込みです。

従業員本人が加入を希望しない場合、加入させなくてもよいですか。

できません。要件を満たす場合は、本人の希望や労使の合意にかかわらず加入が必要です。任意に見送ることは認められておらず、未加入が判明すれば遡って保険料を徴収される可能性があります。

従業員を業務委託契約に切り替えれば保険料を減らせますか。

実態が労働者であれば認められません。指揮命令を受け、勤務時間や場所が拘束されている場合、契約書の名称にかかわらず労働者と判断されます。偽装請負として遡及徴収や労働法上の問題に発展します。

4月から6月の残業を減らすと保険料は下がりますか。

標準報酬月額はこの期間の報酬で決まるため、結果として保険料に影響します。ただし、意図的な調整ではなく、年間を通じた業務量の平準化として取り組むべき課題です。

社会保険料の負担増に使える助成金はありますか。

保険料そのものを補助する制度はありませんが、短時間労働者の労働時間延長や正社員化に取り組む企業向けに、キャリアアップ助成金などの支援制度があります。賃上げとあわせた設備投資には業務改善助成金が利用できます。

まとめ

社会保険料の適正化とは、制度を正しく運用したうえで、報酬設計と業務のあり方を見直すことです。残業の削減、算定基礎届の正確な処理、助成金の活用。地味ですが、これらが確実な方法です。

一方、加入逃れや実態のない業務委託化は、短期的に負担が減っても、遡及徴収と罰則のリスクを抱え込むことになります。2026年10月の適用拡大以降、対象範囲は年々広がっていきます。抜け道を探すより、負担増を前提に収益構造を整えるほうが、結果的に会社を守ります。

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※本記事は2026年9月時点の公表情報をもとに作成した一般的な解説です。保険料率、適用要件、施行時期は変更される場合があります。個別の判断については、社会保険労務士または年金事務所にご確認ください。当社は社会保険に関する手続きの代行を行っておりません。

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