パートを正社員にすると、1人あたりの人件費は年間で100万円以上増えることがあります。一方で、定着率の向上、採用・教育コストの削減、任せられる仕事の拡大といった効果があり、さらにキャリアアップ助成金を活用すれば中小企業で1人あたり40万〜80万円の支給を受けられます。長く働いていて、本人も正社員を希望し、任せたい仕事がある人材であれば、正社員化は費用を上回る効果が見込める投資です。
この記事の要点
- 正社員化で増えるのは、基本給・賞与・社会保険料・退職金・福利厚生などのコスト
- ただし時間あたりの人件費で比べると、差は見た目ほど大きくないことが多い
- 効果は、定着率の向上、採用・教育コストの削減、責任ある業務の任せやすさ、採用力の向上
- 2026年10月の社会保険の適用拡大で、パートでも社会保険料の負担が生じる範囲が広がり、コスト差が縮まる
- キャリアアップ助成金の正社員化コースで、中小企業は1人40万〜80万円。事業所単位の加算もある
- 勤務地限定・職務限定・短時間正社員などの「多様な正社員」という選択肢もある
正社員にすると、何のコストが増えるのか
| 項目 | パート | 正社員 |
|---|---|---|
| 給与の形態 | 時給制が多い | 月給制が多い |
| 賞与 | ない、または少額の場合が多い | 支給する会社が多い |
| 社会保険料 | 加入要件を満たす場合のみ | 原則として加入 |
| 退職金 | ない場合が多い | 制度がある場合は対象 |
| 福利厚生・手当 | 一部のみ | 全体に適用 |
| 労働時間 | 短時間・柔軟 | フルタイムが基本 |
年間の人件費を比較する
| 項目 | パート(時給1,200円・週30時間) | 正社員(月給24万円・週40時間) |
|---|---|---|
| 年間給与 | 約187万円 | 288万円 |
| 賞与 | 0円 | 48万円(2カ月分) |
| 社会保険料(会社負担) | 約28万円 | 約50万円 |
| 年間の人件費 | 約215万円 | 約386万円 |
| 1時間あたりの人件費 | 約1,380円 | 約1,860円 |
年間の総額では約170万円の差があります。しかし正社員は労働時間も長くなるため、1時間あたりで比べると差は約1.35倍です。問題は、この差に見合う効果があるかどうかです。
週30時間勤務のパートは、多くの場合すでに社会保険の加入対象です。また2026年10月からは、従業員51人以上の企業で週20時間以上働く短時間労働者は、年収にかかわらず社会保険の加入対象となりました。パートのままでも社会保険料の負担が生じる範囲は広がっており、正社員との差は以前より縮まっています。
正社員化で得られる効果
効果(メリット)
- 定着率が上がる。雇用と収入が安定し、長く働き続けてもらえる
- 採用・教育コストが減る。すでに職場を知っている人材なので、外部採用より負担が小さい
- 任せられる仕事が増える。店舗責任者、後輩の指導、顧客対応など責任ある業務を任せやすい
- 採用力が上がる。「パートから正社員になれる会社」は求職者に魅力的に映る
- 助成金を受けられる。キャリアアップ助成金で1人40万〜80万円
注意点(デメリット)
- 固定費が増える。業績が落ちても人件費を柔軟に調整しにくい
- 労働時間の柔軟性が下がる。繁閑に合わせたシフト調整がしにくくなる
- 本人が望まない場合がある。扶養の範囲内で働きたい、責任を負いたくないという人もいる
- 他のパートとの公平性。登用の基準が曖昧だと、不満が生じることがある
コストと効果を数字で比べる
前述の試算で年間約170万円の人件費増になる場合、それを上回る効果があるかを考えます。
効果の試算例(1人を正社員化した場合)
・キャリアアップ助成金(重点支援対象者の場合):80万円
・正社員転換制度の新規規定による加算(1事業所1回):20万円
・外部から正社員を1人採用しないで済んだ場合の採用コスト:約70万円
・入社後の教育・戦力化期間のコストが不要:数十万円規模
初年度だけで、人件費増のかなりの部分をまかなえる可能性がある
さらに、正社員化によって店舗や現場の責任者を任せられるようになれば、経営者や既存の社員の負担が減り、その時間を売上をつくる仕事に回せます。正社員化はコストではなく、人材への投資として判断すべきものです。
「人手が足りないから誰でも正社員に」は避けてください。任せる仕事が明確でないまま正社員にすると、人件費だけが増えて効果が出ません。正社員として何を担ってもらうのかを先に決めておくことが重要です。
正社員化に向いている人材の判断基準
正社員化を検討している人について、あてはまる項目にチェック
勤続3年以上の有期雇用の従業員は、キャリアアップ助成金の「重点支援対象者」に該当する可能性があり、中小企業では支給額が40万円から80万円に増えます。長く働いている人ほど、助成金の面でも有利です。
フルタイムが難しいなら「多様な正社員」
本人に正社員化の意欲があっても、家庭の事情でフルタイム勤務や転勤が難しい場合があります。そうしたときの選択肢が「多様な正社員」です。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 短時間正社員 | 所定労働時間はフルタイムより短いが、正社員として雇用される |
| 勤務地限定正社員 | 転勤がなく、特定の店舗や事業所で働く |
| 職務限定正社員 | 担当する業務の範囲が限定されている |
キャリアアップ助成金では、これらの多様な正社員制度を新たに就業規則に規定し、実際に転換した場合に、事業所単位で中小企業40万円の加算が受けられます。本人の事情に合わせた働き方を用意しながら、助成金の受給額も増やせる選択肢です。
正社員化を進める前に必ず確認すること
- キャリアアップ計画書を労働局に提出しているか(取り組みを始める前に必要)
- 就業規則に正社員への転換制度が定められているか
- 転換後の正社員に、賞与または退職金の制度と、昇給の制度が適用されるか
- 転換後6カ月の賃金が、転換前6カ月より3%以上増える設計か
- 転換後に試用期間を設けていないか
- 出勤簿・賃金台帳など、転換前後の記録がそろっているか
先に正社員にしてしまうと、助成金の対象になりません。計画書の提出と就業規則の整備は、正社員化の前に済ませる必要があります。「正社員にしてから助成金を知った」というケースは非常に多いため、検討を始めた段階で確認してください。要件の詳細はキャリアアップ助成金のページで解説しています。
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よくある質問
パートを正社員にすると、人件費はどのくらい増えますか。
条件によりますが、時給1,200円・週30時間のパートを月給24万円・賞与2カ月分の正社員にした場合、年間の人件費は約215万円から約386万円へ、約170万円増える計算です。ただし労働時間も増えるため、1時間あたりの人件費で比べると差は約1.35倍です。
パートを正社員にすると助成金はもらえますか。
キャリアアップ助成金の正社員化コースで、中小企業なら有期雇用から正社員への転換で1人40万円、重点支援対象者に該当すれば80万円が目安です。事業所単位の加算もあります。ただし計画書の提出や就業規則の整備を、転換の前に済ませる必要があります。
正社員化に向いているのはどんな人ですか。
勤続年数が長く、本人が正社員を希望しており、勤務態度が安定していて、正社員として任せたい具体的な役割がある人です。勤続3年以上の有期雇用の従業員は、助成金の重点支援対象者にも該当する可能性があります。
フルタイムで働けない人は正社員にできませんか。
できます。短時間正社員、勤務地限定正社員、職務限定正社員などの「多様な正社員」という選択肢があります。これらの制度を新たに設けて転換した場合、キャリアアップ助成金の加算の対象にもなります。
正社員にした後、試用期間を設けてもよいですか。
助成金を受ける場合は注意が必要です。キャリアアップ助成金では、転換後に試用期間を設けると、その期間は正社員とみなされず、支給区分が下がる可能性があります。
本人が正社員化を望まない場合はどうすればよいですか。
本人の意向を尊重することが大切です。扶養の範囲で働きたい、責任の重い仕事は避けたいといった事情がある場合、無理に正社員にしても定着にはつながりません。賃金規定の改定や賞与制度の導入など、パートのまま処遇を改善する方法もあり、これらもキャリアアップ助成金の対象になります。
まとめ
パートを正社員にすると、年間の人件費は増えます。しかし、定着率の向上、採用・教育コストの削減、責任ある仕事を任せられることによる効果、そして助成金の受給を合わせて考えると、多くの場合でコストを上回る価値が見込めます。
判断のポイントは、長く働いてくれていて、本人も望み、任せたい役割がある人材かどうかです。そのうえで、フルタイムが難しければ多様な正社員を検討し、転換の前に助成金の手続きを済ませる。この順番で進めれば、人材への投資の負担を大きく軽くできます。
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※本記事の試算は一般的な例によるものであり、実際の金額は条件により異なります。キャリアアップ助成金の金額・要件は令和8年度(2026年度)時点の内容で、年度ごとに見直されます。個別の判断は社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
